第1回:F1の風洞はなぜ大きくなるのか?
そもそも空力とは・・・を話すと長くなるのですが、基本だけおさらいしておきます^^;
ドラッグやダウンフォースなどの空気力は、一般的にCDとかCLなどの無次元係数で表されます。
これはなかなか便利な数字で、物体の形状が同じであれば、風速の変化やモデルの縮尺を問わず、基本的に一定です。
空気力= 空気力係数 X 動圧 X 代表面積 (※動圧= 1/2 X 空気密度 X 速度の2乗)
つまりドラッグは、CDと速度と面積があれば算出できるのです。ダウンフォースも同様です。
(代表面積は車の場合、だいたい前方投影面積を使います。)
したがって、精度良く縮小した模型(相似模型)でテストすれば、実車と同じ傾向を示すのです。
ウイングカー全盛期のころ、ウイリアムズの初期の風洞がムービングベルト付でした。
この風洞はエッフェル形式で、モデルスケールは1/4(25%)でした。
ところが、空気力は基本的に一定と言いましたが、正確には空気の圧縮性の影響と粘性の影響とを受けます。通常、空気の圧縮性はマッハ数で表わし、空気の粘性はレイノルズ数で表します。
F1の速度域はおよそ100m/s(時速360キロ)までなので、マッハ数の影響は除外できます。(ちなみに、音速(マッハ1)はおよそ340m/s(時速1200キロ)で、航空力学の分野ではF1の速度域は「低速」ということになります。航空宇宙研究開発機構(JAXA)には、最大でマッハ10という凄い風洞まであります^^;)
しかし、空気の粘性はスケールモデル(縮尺モデル)でテストする場合に影響します。レイノルズ数を合わせないと細かい流れの剥離(ハクリ)などを正確に再現できないということです。
レイノルズ数= (速度 X 代表長さ) ÷ 動粘性係数 (※動粘性係数= 粘性係数 ÷ 空気密度)
この数値は、流れのパターンを表すもので、層流から乱流に変化するポイントや剥離したりする点を説明するのに用いられます。代表長さを車またはモデルの全長とすると、速度300キロで走行する実車を1/4モデルで再現するには、単純に計算しても速度を4倍(!)にしないといけません。ですが、速度を4倍の1200キロには出来ませんし、仮に出来たとしても今度は圧縮性(マッハ数)の影響を受けてしまいます・・・・><。
風洞モデルのスケールを大きくしていくのは、もちろん細かい作りこみの精度があがる利点がありますが、レイノルズ数をなるべく近づけたいという希望的な憶測もあります。少なくとも1/2モデルにすれば、速度は2倍で済むということです。また、1/2モデルで時速300キロでテストすれば、実車で時速150キロの再現ができます。
境界層については次回で説明しますが、F1がフラットボトム全盛のころ、スケールが40%以上で風速が40m/s(時速144キロ)以上でないと、床下と地面とのすき間の流れを再現できないと言われていたようです。そのころから次第に風洞が成長していきました。こうなってくると、もはや小さな模型で簡易的に空力テスト・・・という訳にはいかなくなってきます。
逆に、いっそのこと実車(100%)風洞にすればいいのにと思うかもしれません。
確かにおっしゃる通りですが、トヨタF1の50%風洞では、広さが体育館2個分、高さがビル4階建てだそうです。100%にしたら、巨大な風洞になりそうですね・・・。
風洞のサイズは何で決まるのか?という素朴な疑問が沸いてきますが、それを説明するのにブロッゲージ比という言葉があります。これは、風洞の測定部に空気が吹き出す開口部の断面積を、測定対象となる車やモデルの前方投影面積で割ったものです。
ブロッゲージ比= 測定対象の前面面積 ÷ 風洞の開口部断面積
この数値は一般的に5%(0.05)以下が良いとされています。F1の前面面積をレギュレーションから逆算して計算してみると、およそ1.4u(平方メートル)です。これが5%だとすると、実車風洞の開口部面積は28uあった方が良いと言うことになります。また、50%風洞ではモデル面積が0.35uなので、開口部面積は7.0uで済みます。(簡単に言いますが^^;)
なぜブロッゲージ比が問題になるかというと、実走行では吹き出し口のサイズは無限大になるのに対し、測定部がクローズド形式の風洞テストでは、モデルや実車があることで風路の流れをせき止められたり、偏向した空気が測定部の壁面と干渉してチョーキングしたり跳ね返ってきたりすることが問題になります。逆に、測定部がオープン形式の場合は、偏向された流れは「あさって」の方向にいってしまうかも・・・。尚、スロッテッド形式という測定部は、クローズド形式の壁面にスロット(穴)が開いていて、流れの偏向を受けた場合に必要に応じてトンネル外に空気が逃げるようにしたものです。
実在するF1の風洞で開口部面積が公開されているBMWザウバーの「60%風洞」を例にとると、開口部が15.0uですので、ブロッゲージ比は実車で9.3%となり、60%モデルでは3.36%です。もしかすると、F1のように車体周りの流れが大きく偏向される測定物の場合は、ブロッゲージ比が5%ではまだ不十分で、3%ぐらいが良いという判断かもしれません。ブロッゲージ比が3%で実車風洞をつくるとなると開口部面積は46.67uとなりますね・・・・まだまだ成長の余地がありそうです^^
参考までに、自動車メーカーが所有する実車風洞の開口面積は、日産が37u、三菱が24uあります。(ベルトはありません) こうなると体育館というより、学校そのものですね^^
さて、風洞のサイズは航空宇宙分野のフロンティア達が開拓してきた実績があり、世界を見渡せばもっと大きな風洞はいくらでもあるので、お金さえあれば大きな風洞は作ることは可能かもしれません。
しかし、F1ではそれ以外にも物理的な問題があります。そのひとつはムービングベルト(ローリングロード)による地面効果の反映です。これは早い話がベルトコンベヤーの高速版なんですが、そのスピードは風速に合わせなければならないので、理想としては時速300キロで動かすわけですが・・・・。なかなか技術的に難しいようです。詳細は次回にしますが、ゴム系のベルトではせいぜい時速200キロどまりで、時速300キロぐらいまで出せるベルトの材質はスチール・・・・つまり、鉄製だそうです^^;
これで第1回の風洞うんちく講座はおしまいです^^ つづく
※参考文献:航空力学の基礎(第2版) 牧野光雄 著
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